虻の羽音

一寸の虫にも五分の魂

シロイヌナズナ。

こんにちは、虻です。

今日の話題は植物の研究をしていると非常にお世話になる植物、シロイヌナズナについて。

 

皆さんはシロイヌナズナをご存じですか?

植物の研究をかじったことがある人ならとてもなじみ深く、そうではない人は縁の無い名前かと思います。

 

シロイヌナズナ(学名:Arabidopsis thaliana)はアブラナ科の雑草。

名前からも分かるように、春の七草の一つ、ぺんぺん草ことナズナ(学名:Capsella bursa-pastoris)の親戚ですが、属から違いますので、遠い親戚のようです。キャベツやブロッコリーなんかもアブラナ科ですね。

 

 

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シロイヌナズナの花。(Wikipediaより引用)

しかしそんな美味しい食材たちと違い、シロイヌナズナは野山に生えているだけの雑草なので普段は人間の暮らしには何の役に立ちません。ではなぜこいつが研究に役立つのか。

 

それは、シロイヌナズナが植物のモデル生物であるから。モデル生物ってなんぞや、と言いますと……

 

モデル生物(モデルせいぶつ)とは生物学、特に分子生物学とその周辺分野において、普遍的な生命現象の研究に用いられる生物のこと。(引用:Wikipedia)

 

と、いうことです(自分で説明しろ)。

植物の研究をしようとしても、地球上には凄まじい数の種類の植物が存在しているので、「どれを使えばええんや!」となる訳です。色んな研究者がそれぞれ別の植物を使って研究を進めていたら得られた知見を比較するのも難しい。

そこで、植物の代表選手として選ばれたのがシロイヌナズナ。地球上の生物は共通の祖先から進化しているので、種が全然違っても似たような遺伝子は結構保存されているんですね。つまり、シロイヌナズナの研究で得られた知見が他の植物に応用できる、ということです。

 

ちなみに植物業界の代表選手がシロイヌナズナであるように、大腸菌酵母ショウジョウバエやゼブラフィッシュなんかが動物業界のモデル生物として知られています。黒光りするアイツ(婉曲表現)の次くらいにうざい小バエ君もその道では大活躍です。我々人間とも共通する遺伝子が数多く有り、欠かせない存在です。家で見かけたら感謝の気持ちを持って小バエ取り送りにしてやりましょう。

 

モデル生物は適当に選んでいるわけではなく、きちんと研究に使いやすい生物が選ばれています。サイズが小さいこと、簡単に手に入ること、世代交代が早いこと。なるほど確かに、雑草のシロイヌナズナは適していますね。

 

しかし重要なのはゲノムのサイズが小さいこと。ゲノムと遺伝子の違いは分かりやすくまとめておられるサイトを発見したので紹介しておきます。

trtmfile.com

 

ゲノムは2000年に全ゲノム配列の解読が完了(ちなみにヒトゲノム計画が完了したのは2003年)、結果、約1.3億塩基対と植物の中ではかなりゲノムサイズが小さかったのです。植物で現在確認されている最大のゲノムサイズはキヌガサソウの約1500億塩基対なので、もの凄い差ですね。

 

ゲノムサイズが大きいからと言って偉い!ということはありません。ヒトは約30億塩基対でキヌガサソウ様の足下にも及びません。

 

シロイヌナズナは物理的なサイズ的にも、ゲノムの扱いやすさ的にも、実験にとても使いやすいのです。僕が所属する研究室の恒温室も遺伝子が改変されたシロイヌナズナがわさわさしてますね。(ついでに土から湧いてきた小バエもわさわさしてる)

植物の研究は人間が口にする穀物や野菜の研究にも大いに応用され得るので、シロイヌナズナは私たちの食を支える縁の下の力持ち、と言えるかもしれませんね。

 

最後に、日本においてモデル植物としてシロイヌナズナを普及させた立役者、岡田清孝先生のコラムを紹介して今回の記事は終了とさせて頂きます。

brh.co.jp

 

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。それでは。